【建築士監修】高気密高断熱住宅のエアコン計画|最適な機種・容量で快適&省エネを実現

スタッフブログ2025年02月03日

吹抜け上のホールから見下ろす子供たち

高気密高断熱住宅は、その名の通り「高い気密性」と「高い断熱性」を備えた住宅です。ハイスペックな性能を携えたこの住宅では、少ないエネルギーでも効率的に過ごしやすい室内環境を維持できます。
そのため、同じ広さ・間取りの家でも、一般的な家に比べ、高気密高断熱住宅の場合は最適なエアコンが異なる場合があり、機種選びの際はいくつかのポイントをおさえることが大切です。

この記事では、高気密高断熱住宅におけるエアコン計画について、建築士の視点から徹底解説します。最適なエアコンの選び方や設置場所、注意すべきポイントについて、事例を交えながら詳しく紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。

 

高気密高断熱住宅はエアコン1台でも快適?


壁掛けエアコン

「エアコン1台で家中快適!」とうたわれることの多い高気密高断熱住宅ですが、本当に少ない冷暖房でも快適に過ごせるのでしょうか?
あらためて高気密高断熱の特徴を確認するとともに、その真相を解説します。

 

そもそも高気密高断熱住宅とは


高気密高断熱住宅は、外気の影響を受けにくい構造を持つ住宅です。住宅のすき間を減らし、壁や天井、床に高性能の断熱材を施工、さらに高断熱の窓を採用することで、冬は暖かく、夏は涼しい環境をつくります。結果としてエネルギー効率が向上し、電気代をはじめとする光熱費の削減が期待できるというわけです。

例えば、外気温が氷点下の冬の日でも、高気密高断熱住宅では室温を20℃程度に保ちやすいのが特徴です。さらに真夏でも日射の影響を抑えながら快適な温度を維持できるため、一年を通して省エネで健康的な住まい環境の実現が可能です。

気密性の指標としては「C値」が、断熱性の指標としては「UA値」が使われ、それぞれ下記の意味を持ちます。



高気密高断熱住宅ではこの2つの性能の両立によって、より快適で省エネな住まい環境をつくります。C値・UA値はエアコンの性能を評価する際にも使われることがあるため、意味を理解しておきましょう。

 

条件を満たせばエアコン1台でも家中快適


外気温の影響を受けにくい高気密高断熱住宅は、少ないエネルギー消費でも快適な室内温度を保ちやすく、以下のような条件下であればエアコン1台でも冷暖房として十分な機能を果たし、快適に過ごすことができます。



もちろん、生活スタイルや地域によってはエアコン1台では不十分な場合もあります。しかし、高気密高断熱住宅はエアコン効率を最大限に引き出すための性能を持つため、一般的な住宅に比べて光熱費が安く、温度ムラの少ない快適な住まい環境をつくりやすい住宅といえます。

 

場合によってはエアコン2~3台の方が省エネ


高気密高断熱住宅はエアコン1台で家全体を冷暖房できるケースも多いものの、住宅の規模や間取りによっては、エアコン1台よりも複数台設置した方が、より省エネになる場合があります。

エアコンは室内機を設置する場所が最も快適な温度に保たれるため、遠い場所は温度調整が難しく、温度ムラが生じる可能性もあります。
平面的に広い家、または複雑な間取りの2階建てや、そもそも温度変化の多い3階建てなどは、無理に1台に頼らず2~3台設置した方が、快適で省エネな住まいになるでしょう。

 

光熱費削減!効率的なエアコンの設置場所


吹き抜けに設けられたエアコン

通常、エアコンは部屋の天井付近に取り付けるケースが多いものですが、高気密高断熱住宅では、より効率的な場所への設置が推奨されます。以下で具体的な設置場所について解説します。

 

冷房と暖房の側面から効率的な設置場所を考える


高気密高断熱住宅では、エアコン1台で家全体を冷暖房するケースも少なくありません。少ない熱源を効率的に稼働させるためには、「冷たい空気は下に溜まり、暖かい空気は上にいく」という特性を考慮し、冷房時と暖房時に分けて最適な配置を考えることが大切です。

冷房時は、家の一番高いところにエアコンを設置するのがおすすめです。吹き抜けや階段に面して設置すれば、冷気をより効率的に循環させられるでしょう。一方、暖房時は1階のエアコンを稼働させることで、家全体を暖められます。
この場合、「2台を異なる場所に設置して、夏と冬で使い分ける」という状態になりますが、稼働しているのは常に1台のみのため、各部屋でエアコンを動かすより光熱費を大幅に削減できます。

 

高気密高断熱住宅でのエアコン運用例


壁際のエアコン

いかに高気密高断熱な家であっても、1台のエアコンからの熱を個室や浴室など家の隅々まで行き渡らせるのはなかなか難しいもの。そこで有効なのが、「空調室」を設ける方法です。
空調室方式では、一般的なエアコンを空調室に設置し、換気システムと合わせ、接続されたダクトから各部屋へ空気を送り届けます。ダクトは壁や天井、床下などに隠ぺいされているため、部屋内に設備や器具が現れることはありません。
エアコンは、小さな個室を設けて設置する場合に加え、小屋裏や床下の空間に設置する場合もあります。

さらに、この方式はエアコン本体のメンテナンスが容易な点も魅力。通常の壁掛けエアコンを使用するため、故障時も迅速な対応が可能です。また、全館空調のように大掛かりな工事を必要とせず、初期費用を抑えられるメリットもあります。
ただし、このシステムを効果的に稼働させるには、高気密高断熱であることに加え、適切な間取り設計と冷暖房負荷計算に基づいた空調計画が必要になります。

 

高気密高断熱住宅に適したエアコンの容量(畳数)


エアコン設置のイメージ

 

高気密高断熱住宅のエアコンは「容量小さめ」を選ぶ


高気密高断熱住宅は、従来の住宅に比べて気密性・断熱性に優れているため、冷暖房効率が非常に良くなります。そのため、エアコンの容量選びにおいても、一般的な住宅とは異なる考え方が求められます。

そもそも、エアコン選びの目安となる畳数表示は、1964年当時主流であった無断熱の木造住宅が基準となっており、50年以上経過した現在でも変更されていません。そのため、高気密高断熱住宅において表示の畳数通りにエアコンを選ぶと、オーバースペックとなりムダな消費エネルギーが生じてしまう可能性があります。
気密性・断熱性が高い家では、6畳用のエアコン1台でも家中の冷暖房をまかなえるケースもあり、表示畳数より小さめの容量でも快適性が保てます。

ただし、「小さめ」といっても、極端に小さい容量のエアコンを選んでしまうと、十分な冷暖房効果が得られない可能性があります。実際の部屋面積や間取り、断熱性能などを考慮しながら、最適な容量のエアコンを選びましょう。新築時であれば、設計担当者にエアコン選びを相談するのもよいでしょう。

 

高気密高断熱を配慮したエアコンの容量計算


高気密高断熱住宅のエアコン容量の選び方としては、必要暖房能力と必要冷房能力を計算する方法が一般的です。
必要暖房能力は、家の断熱性能や気密性能、部屋の広さ、地域の外気温などを考慮して計算します。必要冷房能力は、家の断熱性能や気密性能、部屋の広さ、地域の外気温などに加え、日射量も考慮して計算します。

ただし、これらの計算は非常に複雑なため、住宅の設計担当者など専門家に依頼するのが一般的です。専門家は、家の設計図や地域特性などを基に、最適なエアコン容量を計算してくれるでしょう。

必要なエアコン容量を簡易的に知りたいという場合はエアコン選定ツールの活用もおすすめです。例えば、電力中央研究所(エネルギーイノベーション創発センター)によるエアコン選定支援ツール『ASST』では、住宅所在地や断熱性能、部屋の広さなどの条件を入力することで、適切なエアコンのスペックを簡単にチェックできます。

 

高気密高断熱住宅でエアコンを効果的に使うコツ


エアコンのリモコンと節約のイメージ

高気密高断熱住宅では、エアコンの効率的な運用が快適性と省エネ性の両立に直結します。ここでは、効果的にエアコンを使うためのコツを紹介します。

 

適切な設定温度と風量調整


高気密高断熱住宅では、エアコンの設定温度を極端に高くしたり低くしたりする必要はありません。以下のポイントを参考にしてください。

・冬季は20℃〜22℃、夏季は26℃〜28℃が目安。
・エアコンの風量設定を「自動」にすると、最適な空気循環が維持される。

高性能な住宅では外気の影響が少ないため、設定温度の小さな調整で快適な環境を保てます。ただし、これはあくまでも目安であり、湿度や住宅の断熱性能、個人の体感温度によって調整が必要です。

湿度が高い場合は、設定温度を少し低めに設定するか、除湿機能を併用することで快適さを向上できます。反対に、乾燥しやすい冬は加湿器などを活用し、湿度を適切に保つと体感温度が上がり、設定温度を上げすぎずに暖かく過ごせるでしょう。

 

「つけっぱなし」運転で光熱費削減


エアコンは起動時に最も多くの電力を消費します。こまめにオン・オフを繰り返すと、そのたびに多くの電力を消費するため、結果的につけっぱなし運転よりも光熱費が高くなる可能性があります。

また、高気密高断熱住宅は断熱性能が高いため、一度暖めた(冷やした)空気を長時間保持できます。そのため、つけっぱなし運転でも最小限のエネルギー消費で済むため、光熱費がかさむこともありません。
つけっぱなし運転をする際のポイントは、適切な設定温度と風量調整です。設定温度は外気温と室温の差を考慮し、風量は「自動」に設定するのがおすすめです。

 

エアコンと換気システムの併用


高気密高断熱住宅では、エアコンと換気システムを併用することで、より快適な室内環境を実現できます。適切な換気を行えば、室内の温度や湿度を一定に保ち、カビやダニの発生を抑制する効果も期待できます。
住宅で採用される換気システムには、主に「第一種換気」と「第三種換気」の2種類があります。



高気密高断熱住宅で第一種換気システムを採用している場合、換気システムによって外気の影響を低減できるため、エアコンの設定温度を控えめにできます。これは、換気システムが外気と室内の温度差を緩和する役割を果たすためです。

一方、外気をダイレクトに取り込む第三種換気システムの場合は、外気温の影響を受けやすい特徴があります。夏場で外気温が高い場合はエアコンの設定温度を低めに、冬場で外気温が低い場合は設定温度を高めに設定する必要があるでしょう。

高気密高断熱住宅と相性が良い換気システムは第一種換気といわれていますが、完全機械による給排気のため、初期コストが高く、停電時に換気が止まるといったデメリットもあります。コスト面や快適性などのバランスを考えながら、最適なタイプを採用しましょう。

 

スマートホーム化でさらに快適に


最近では、スマートフォンやAIスピーカーを利用してエアコンを遠隔操作する家庭も増えています。高気密高断熱住宅においても、スマートホーム化は快適性を向上させる有効な手段になります。

例えば、帰宅前にあらかじめ冷房や暖房をオンにしておけば、帰宅時は部屋が適温になっています。また、GPS機能と連携させれば、自宅に近づくと自動的にエアコンが起動するように設定することも可能です。
さらに、温度センサーや人感センサーを組み合わせ、部屋の温度や人の在室状況に応じて自動的にエアコンを制御すれば、消費エネルギーをより効率的に抑えられるでしょう。

 

高気密高断熱住宅におけるエアコン設置時の注意点


リビングのエアコンとソファでくつろぐ子供

エアコンを高気密高断熱住宅に設置する際には、住宅特性を考慮した計画が必要です。ここでは、具体的な注意点を紹介します。

 

換気システムを考慮したエアコン選び


近年はさまざまな機能を持ったエアコンが販売されていますが、高性能の住宅では多機能タイプを選ぶ必要はないかもしれません。
例えば、現在の住宅では24時間換気が義務付けられています。換気機能を持つエアコンもありますが、適切に空気循環されている住まいでは不要の機能といえるでしょう。

さらに、消臭機能や抗ウイルス機能付きのエアコンもありますが、住宅の換気システムに同等の機能が付与されている場合もあります。
特に第一種換気が採用されているケースが多い高気密高断熱住宅では、換気システムとエアコンの機能が重複してしまう可能性があります。エアコンは多機能なほど高額になるため、冷暖房のみに特化したシンプルな機能の機種を選べば、購入費用を大きく節約できるでしょう。

 

住宅の特性を理解した業者選び


高気密高断熱住宅では、エアコン選びと設置を行う業者の選定が重要です。住宅の特性を理解していない業者に依頼すると、期待した性能が発揮されなかったり、結露やカビの発生、光熱費増加といった問題が生じる可能性があります。

最適なエアコン業者を選ぶポイントは、高気密高断熱住宅への施工実績、特に容量選定や設置場所選定の実績です。加えて、気密性・断熱性に関する専門知識や、省エネ性能の高いエアコンに対する提案力も確認しましょう。
消費電力や運転効率などを考慮した説明があれば安心です。

しかし最も理想的なのは、住宅設計とエアコン計画を同一設計者に任せることです。設計者は住宅の気密性・断熱性、間取り、ライフスタイルなどを考慮し、最適なエアコン機種、設置場所、台数を提案できます。
新築や大規模リフォーム時は、設計担当者にエアコン計画を含めた相談をしましょう。部分リフォームでも、設計事務所への相談により住宅性能を考慮したエアコン選びが可能になります。

 

厚木・海老名・町田で高気密高断熱住宅を建てるなら「サラホーム」桜建築事務所へ


サラホーム施工事例:大空間LDKのある高気密高断熱住宅

今回は、高気密高断熱住宅におけるエアコン計画についての情報をお伝えしました。
高気密高断熱住宅は、エネルギー効率の高い快適な住環境を実現します。しかし、その性能を最大限に引き出すには、住宅性能に合わせたエアコン計画がカギとなります。
本記事で紹介したように、適切なエアコンの選び方や設置場所、運用方法を意識することで、より快適で省エネな暮らしが可能になるでしょう。

桜建築事務所「サラホーム」では、高気密高断熱の家づくりに特化した設計・施工を行っています。地域密着型のサービスで、厚木市、海老名市、町田市を中心に、多くのお客様にご支持いただいています。
エアコン計画を含めたトータルでの住宅設計をご希望の方は、ぜひ一度ご相談ください。

サラホームの高気密・高断熱構造についてはこちら

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監修者:髙橋 康征(たかはし やすゆき)
一級建築士/一級土木施工管理技士/CASBEE建築・戸建評価員/インテリアコーディネーター



日本大学生産工学研究科建築工学専攻修士課程を修了し、一級建築士として数多くのプロジェクトを手掛ける。家業の土木建設会社にて宅地造成・エクステリア施工業務を経て、桜建築事務所に入社。住宅分野に限らない幅広い知識による提案や固定観念に囚われない設計が好評を得ている。「ジャーブネット全国住宅デザインコンテスト グランプリ受賞」「2013年2022年2023年2024年LIXIL全国メンバーズコンテスト 地域最優秀賞受賞」など、住宅デザインコンテスト受賞実績を多数保有。

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